はじめに:壊れていったのは、心ではなく“仮面”だった

「先生って、明るいよね」「子どもにも保護者にも人気で、頼れる存在だよね」

そう言われていた先生が、ある日突然、職員室で孤立し、泣きながら帰宅するようになった。

原因は、本人の努力不足でも、人間関係のすれ違いでもありません。 それは、“構造”の問題です。

この記事では、実際に職場いじめ・モラハラ被害に遭った二人の先生の実例とともに、

  • なぜ「明るくて優しい先生」が狙われるのか?
  • 加害構造の本質と管理職の無責任体質とは?
  • 具体的に何をすれば、被害から抜け出せるのか?
  • カウンセリングによって、どのように再生が可能なのか?

これらを、余すことなくお伝えします。


教師の職場いじめ事例1:小学校担任・藤本先生(仮名)

藤本先生は、6年生の担任を務めて3年目の30代半ばの女性教師です。明るく穏やかな性格で、生徒や保護者からの信頼も厚く、若手のなかでも実力を認められていました。学年主任を任され、学級運営や学校行事の調整、保護者対応もこなし、忙しい日々を送っていました。

しかし、ある年の4月、新しく異動してきた同僚教員と方針が合わず、些細な衝突がきっかけとなって、周囲の空気が一変します。職員室での会話に入れてもらえず、挨拶しても目をそらされる。日常的に無視され、会議では彼女の発言が意図的にスルーされるようになりました。

信頼していた先輩に相談しても「そのくらいよくある」「気にしすぎ」と返され、管理職に話しても「トラブルはお互いさま」と曖昧に笑われるだけ。

心の限界が近づいたある日、仕事を終えた帰り道、自転車を降りて彼女は泣き崩れました。周囲に人のいない場所で声を殺しながら、繰り返しこうつぶやいたそうです。

「私、何を間違えたんだろう……誰か助けて……」

翌朝も、彼女は笑顔を貼りつけて出勤し、教室に立ちました。子どもたちの前では、変わらず明るく、優しい先生であろうとしました。しかし、心の中では「どうして、ここまでしても認めてもらえないのか」と、自分を責める気持ちが積もっていきました。

“明るさ”という仮面が壊れるまで、時間はかかりませんでした。

小学校では“学年単位”の文化が強く、一度浮いた教員は、そのまま職員室の空気ごと切り離される傾向があります。いじめやモラハラは怒鳴ることや暴言だけではなく、静かで目立たない「排除」によって成立する。そしてその沈黙が、被害者の心を確実に追い詰めていくのです。◆教師の職場いじめ事例1:小学校担任・藤本先生(仮名)

藤本先生は6年担任3年目。学年主任、保護者対応、校務分掌。すべてをそつなくこなす“できる先生”でした。

しかし、ある時から隣のクラスの教員が挨拶を返さなくなりました。 会議での発言は無視され、自分だけが孤立していく。

主任に相談しても「気にしすぎ」、教頭には「人間関係は難しいから」と流されました。

ある夜、自転車を降りて泣き崩れながら、彼女はこうつぶやいたといいます。

「私、何か悪いことをしたんでしょうか……」

翌朝も笑顔で教室に立ち、仮面の裏で心を切り離していた藤本先生。

小学校という“学年単位での動き”が強い現場では、 一度排除されると、誰も助けてくれないまま、ゆっくりと孤立が完成していきます。

いじめは、怒鳴る人だけが加害者ではありません。 無視し続ける周囲もまた、加担者なのです。


教師の職場いじめ事例2:特別支援学校教員・浅井先生(仮名)

浅井先生は、特別支援学校に勤めて7年目。重度の知的障害と肢体不自由を併せ持つ子どもたちのクラスを受け持ち、日常的な介助・授業・保護者対応まで一人で担うことが多い現場にいました。

生徒の安全のために体を張り、事故を防ぐために常に神経を尖らせ、わずかな表情や仕草の変化を見逃さずに接していた浅井先生は、保護者や子どもからの信頼も深い存在でした。

ある日、パニックを起こした児童の介助中、彼女は肩を強く打ちました。明らかに腫れ、痛みもひどかったものの、「今、抜けたら迷惑がかかる」と誰にも言えず、保健室にも行かずに一日を過ごしました。

職員室に戻っても、同僚は誰も声をかけませんでした。隣の机の副担任はスマホをいじったまま目も合わせず、「お疲れさま」とだけ言って、そのまま会話を切り上げました。

その週の金曜日。帰宅後、玄関のたたきでそのまま倒れ込んだ浅井先生は、靴も脱がず、コートも着たまま、2時間以上身動きが取れなかったといいます。頭は真っ白で、身体は冷え切っていたのに、感情だけが嵐のように吹き荒れていた。

「このまま動けなくなれば、楽かもしれない」

そう思った瞬間、自分でも涙が止まらなかったそうです。

特別支援学校では、「大変さを口にする=責任感が足りない」と受け取られる空気があります。声をあげないことが“配慮”とされ、「自分の限界は自分で処理すべき」と暗黙の了解が漂っています。

浅井先生は、いつしか“感じないようにすること”で、なんとか耐えていました。

けれどその沈黙こそが、彼女の心を静かに、確実に破壊していったのです。


なぜ「明るくて優しい先生」ほど、いじめられるのか?

いじめの本質は「反撃しない人を標的にする」という加害心理にあります。

  • 誠実で、責任感があり、逃げずに頑張る人
  • 人間関係を乱さず、礼儀正しく接する人

──こういった先生が、なぜか狙われてしまう。

加害者の多くは、自分より目立つ相手、自分の価値を脅かす“優秀な存在”を恐れています。 その不安や劣等感から、「排除」に走るのです。

さらに、学校という場には、

  • 年功序列、縦社会の空気
  • 派閥や分掌による沈黙の同調圧力
  • 「我慢こそ美徳」という感情抑圧文化

こうした“構造の歪み”が、被害者の孤立と加害者の温存を招いています。


管理職の放置が生む「共犯構造」

校長やf副校長(教頭)が「見て見ぬふり」を決め込むと、現場は地獄になります。

  • 「問題にしたら学校の評判が落ちる」
  • 「記録を残すと教育委員会がうるさい」

という保身の姿勢が、結果として加害者を守ることになります。

そして、もっとも悪質なのは「沈黙する同僚」たちです。 目の前で起きているのに、何も言わない。 それがどれだけ被害者の尊厳を削っていくか。

沈黙は、中立ではありません。 沈黙は、加害そのものです。


◆教師が職場いじめから自分を守る5つの行動

1.記録を取る(「感じたこと」ではなく「起きたこと」)

いじめやモラハラを受けているとき、人は混乱し、出来事の前後関係や事実を正確に捉えることが困難になります。だからこそ、冷静なうちに「起こったこと」を記録することが重要です。発言内容、日時、周囲の状況、自分の身体・精神の反応などを客観的にメモしてください。

できるなら、日誌形式ではなく「記録簿」として簡潔にまとめるのが理想です。後に第三者へ相談する際にも、極めて有効な証拠になります。

例:「〇月〇日 朝の会議で〇〇に発言を遮られる。その後無視された」

冷静な記録が、あなたの感情の正しさを証明してくれます。

2.録音する(音は“第三者の証人”になる)

加害者の言動が常に証拠に残るとは限りません。特に口頭での威圧や嫌味、皮肉などは、記録しなければ「なかったこと」にされやすいのが現実です。スマートフォンの録音アプリを使い、勤務中や会議中などの場面で自然に録音できる体制を整えてください。

録音があることで、曖昧な記憶が“動かぬ証拠”に変わります。露骨な叱責や威圧的な口調は、録音が有効な証拠になります。 スマートフォンの録音アプリを常備しましょう。

※更衣室やトイレなどでの録音は絶対にしないようにしてください。職員室や会議室などでするようにしてください。

3.“無関心な人”を見限る(期待しない=傷つかない)

人は、「わかってくれるはず」と信じた人に裏切られることで、より深く傷つきます。「あの人だけは味方だと思っていたのに」という感情は、いじめの二次被害を生む要因になります。沈黙する人、目をそらす人、話を聞いてくれない人に過剰な期待をしないこと。

それは“冷たさ”ではなく、“自分を守る知恵”です。信頼できる人かどうかは、あなたの苦しみに「耳を傾けてくれるか」で判断してください。「助けてくれるはず」と思った人が何もしなかったとき、人は深く傷つきます。 期待しないことは、自分を守る術です。

4.職場外に思考と視点を移す(学校だけが世界ではない)

いじめが深刻になると、被害者の視野はどんどん狭まり、「この職場、この人間関係、この今だけが全てだ」と思い込みがちです。そこで、意図的に学校の外とつながりを持つことが重要になります。本を読む、信頼できる人と会話する、他の職場の先生の体験談を知る、カウンセリングを受ける・・・

こうした行動が、“いまの苦しさがすべてではない”という感覚を育ててくれます。閉じた環境にいると、正常な判断力が鈍ります。 外部の本・記事・信頼できる人の言葉に触れ、視野を確保しましょう。

5.“逃げる”を選択肢に加える(逃げるは恥ではない)

「辞めたら負け」「異動したら逃げたと思われる」といった固定観念が、被害者を追い詰めます。しかし、現実には“逃げること”によって命を守れた先生が多く存在します。大切なのは、誰かの評価ではなく、自分の心身の安全です。

逃げることは、あなたが壊れてしまう前にとるべき“戦略”です。むしろ、何もせず耐え続ける方が、長期的には損害が大きい。逃げることは、勇気ある選択なのです。退職・異動・休職は「負け」ではなく、「戦略」です。 自分を守る判断を下せる人は、本当に強い人です。


回復の鍵:カウンセリングで何が変わるのか?

カウンセリングを受けた多くの先生が、最初に語るのはこうです。

「私が悪いんじゃないかと思ってました」

しかし、セッションを重ねる中で、自分を責める思考が解けていきます。

ある先生はこう言いました:

「自分が壊れていたんじゃなくて、壊されていただけだった」

気づいた瞬間、涙が止まらなかったといいます。

カウンセリングでは、言葉にできなかった怒りや悲しみが、 ゆっくりと「自分の声」として戻ってきます。

  • 「あのとき、無視されて悔しかった」
  • 「あの沈黙が怖かった」
  • 「本当は泣きたかった」

それを誰かに聴いてもらうだけで、心は確かに動き出します。

やがてこう変わります。

「今の私は、もう前の私じゃない」

それが、再生です。


まとめ:あなたは、壊れていい人ではありません

いじめに遭ったからといって、価値がないわけではない。 壊れそうになるほど、誰かのために尽くしてきたあなたは、 むしろ“最も尊い存在”です。

だから、どうか、

「私は大丈夫」と言い聞かせる前に、 本当の声に、耳を傾けてください。

あなたを守れるのは、あなたのその一歩だけです。