皆さん、こんにちは。先生のための働き方コーチ・平田洋典です。
「うつ」の先生方が職場復帰する最後の関門として、「復帰プログラム」なるものがあります。
以前のブログ、〈「うつ」で休職した先生が復帰する場所は?〉で書いた通り、このプログラムが大問題なのです。
そこでは、段階を踏んで、最終的には、管理職や教育庁職員、医師の「監視」のもと、授業参観が実施されます。
「うつ」を発症した場で訓練をすることが、「うつ」の先生を苦しめている面があるのです。自身を苦しめた要因がそこにあるわけですから。
言ってみれば、「復帰できないプログラム」になっているのです。
今回はその進め方を中心に、改善点を提案します。
目次
「うつ」に苦しむ先生を一人の人間として見ているか
「うつ」になった先生方も、一人の人間としての背景があります。経験があるのです。
そして感情もあります。したがって、紋切り型のプログラムにはめて機械的に進めてもマイナス面が大きくなります。
しかし、現場に戻るために授業ができることは大前提でしょう。では、復帰プログラムでの授業観察をどのように進めればよいのか?
現行の復帰プログラムの問題を挙げ、「うつ」に苦しむ先生方の心情面に配慮したプログラムの必要性を以下に述べていきます。
できないことへの過剰な反応
「うつ」症状のある先生方は、自責の念が通常よりも強いです。その度合いに違いはありますが、他者よりも相対的に高いのは事実です。
よって、「できない」ことに意識がいくと、自分を責めてしまうことも多いです。
「うつ」は再発しやすいですし、そもそも完治してから復帰プログラムを迎える方は多くはありません。ほとんどの先生方が寛解状態で臨まれるのです。
そのことを配慮すれば、当事者の先生が「できない」と認識しにくい状態を準備することが最優先されるべきです。
しかし、現実的には「通常の状態で授業ができなければ、現場には戻せない」という「お上」の考えのもと、融通の利かないプログラムになっています。
ここに陥穽があります。
その点の説明します。
そもそも「通常の授業」を全員がしているわけではない、という事実があるのです。残念ですが。
ほとんどの先生は職責を果たされている真面目な社会人であり、教師です。
しかし、中には、「できない」ではなく「やらない」方がいます。
管理職から注意されても無視。時には暴言を吐く。
このようなことがまかり通っているのです。
多くの正直者である他の先生方が馬鹿を見る現状があります。
管理職も覚悟を持って、そこを教育庁に上げるべきですが、なかなか上げない。
よって、「通常の授業」に絶対的にこだわるというのは、弱者だからこそ管理職等が強気に出ている感が否めません。
その態度に、「訓練」中の先生方は追い詰められ、「できない」自分に嫌気がさし、自責の念が強まり、「うつ」の症状が再度強くなることさえあるのです。
焦らず丁寧に、対象の先生の心情を汲むこと
100メートルを12秒台でしか走れない人に、「お前遅いよ。11秒台で走れよ!」と言って、その言葉は実を結ぶでしょうか。
また、50キロのバーベルしか持ち上げることのできない人に、「お前何やってんだよ。70キロ、80キロを持てよ!」という場合もどうでしょうか?
指示を出す方の一方的なペースや考えによって、言われた側は潰れていくことが明白です。
「復帰プログラム」もこれと同様のことが行われているのです。
対象の先生の心を最優先して、できることに少しずつ負荷をかけていくことが望ましいのです。
「休みたいのか、働きたいのか」意思確認を
「うつ」になる先生は総じて真面目な性格の方が多いです。よって、「早く復帰しないと迷惑がかかる。職場にも家族にも」という責任感・罪悪感から、復帰を急がれている状態もあるのです。
この状態は、寛解にも至っておらず、まだ「うつ」状態が一日のほとんどを占めていることも考えられます。
管理職は、先生の表情や発言、身体の機能的な面(過度な筋緊張等)を観察して、実施の判断をすることが必要です。
もし、無理な常態だと判断したなら、「今はゆっくりと休んでください。〇〇先生が、より元気な状態で戻ってくださることが私たちの願いです。
職場のことは心配いりませんよ。御家族とゆっくりお話をされたり、休養をとる時間に充ててください。その時間は、〇〇先生にも私たちにも必要な時間なのです」などと、穏やかにゆっくりと伝えると良いでしょう。
前向きな姿勢を応援して、適切なやり方を工夫する
身体症状等が収まっていて、気負いがさほどなく本人も前向きに行動したいという意思が確認できた場合は、その気持ちを応援するのです。
ただ、最終の復帰プログラムも、「月曜日は3コマの授業を持つから、3コマをしっかりできたら合格」などとする必要はありません。
それこそ、ちょっとした躓きが重なり、「うつ」症状が再発するかもしれません。
「まずは50分」です。
そして、分掌や部活動にも関わってもらう。「すべての業務に携われた!」という達成感を持ってもらうためです。
ここでの注意点は、「量を減らす」ということです。
部活動は顔を出して、指示を出すだけ。
分掌も、担当が3つでも1つだけに集中してもらう。
量が減って、そのことを申し訳なく思う先生もいらっしゃいますが、「任されている」ことがあるだけで、ずいぶん変わります。
分掌を丸ごと外されたり、部活動を丸ごと外す、ということを避けていただければ大丈夫です。
「もうできます」という言葉
無理なく復帰へのプログラムを進めて、本人が「もうできますので、最終的な判断をお願いします」と申し出てから、最終的な授業観察を行うことで、判断していけば良いのではないでしょうか。
本人の自信回復を待つのです。
教委等のプログラムに合わせるのではなく、あくまで本人の意思に合わせていくのです。
この姿勢を、校長先生、行政が持って、医師と連携しながら長い目で、一人の先生の回復を支援していきましょう。
「観察」ではなく「支援」の視点で
「うつ」という辛い状況から、意思をもって復帰しようとする先生。
その先生に対して、上から目線で「本当に大丈夫か見てやろう」という見方は、圧力となり本人に伝わります。
一人一人の先生方は人財です。「教育界の財産を支援する」という視点を持ち、教師本人第一の姿勢で、ゆっくりと着実に復帰までの道のりを伴走していくプログラム作りを考えていただけると幸いです。