うまくいっていることもあるにもかかわらず、「何をやってもうまくいかない」と感じる先生は、結構いらっしゃいます。これは、脳の認知バイアスによって失敗だけに注目し、成功を見落としているだけです。視点を変えれば必ず突破口は見つかります。

人間の脳は一度ネガティブな情報に注意を向けると、それ以外の情報を無視する「確証バイアス」という特性があります。その結果、実際には成功している部分も多数あるのに、失敗だけが目につく状態になっているのです。

私自身、初任者時代に同期のY先生から学んだ「受け取り方」の転換で、この認知の罠から脱出できました。同じ研修で同じ指摘を受けても、私は「攻撃された」と感じ、Y先生は「学ばせてもらった」と受け取る。この違いが、その後の教師人生を大きく左右したのです。

つまり、現在うまくいかないと感じている教師も、認知の歪みを正すことで状況を劇的に改善できるということです。具体的な方法を以下で詳しく解説します。

★関連記事:「何をやってもうまくいかない」と悩む先生へ

初任者研修で学んだ衝撃の気づき

同じ状況、正反対の受け取り方

初任校での出来事です。同期のY先生と共同で作成した指導案について、初任者研修で他校の教師や指導者から厳しい指摘を受けました。

内容に自信があった私は、持論で反論しましたが、さらに厳しい指摘を受けて修正を余儀なくされました。研修後、私は完全にイライラしていました。

「おかしくないですか?あんな言い方ないですよ。分かっていないですよ、みんな」

しかし、Y先生の反応は全く違いました。

「良かったんだよ、あれで」

この言葉に私は驚きました。同じ状況を体験したのに、なぜこんなに受け取り方が違うのか。

Y先生が教えてくれた視点転換の極意

Y先生は続けて言いました。

「『言われる』のではなく『言ってもらえる』と考えるよ、俺は。それはありがたいことだ。まず、聞いてもらえているし。それに、今回言ってもらったことで、気づきもあったでしょ」

さらに衝撃的だったのは次の言葉です。

「気づかなかった?みんな、指摘もしたかもしれないけど、『参考にしたい』とか、『これは初めて知った』とかも言ってたよ」

この瞬間、私の認知は完全に変わりました。同じ研修、同じ指摘、同じ結果なのに、受け取り方次第でこれほど違う体験になるのかと。

なぜY先生は冷静でいられたのか

Y先生の受け取り方を分析すると、以下の特徴がありました。

批判を学習機会として捉える思考 :指摘を「攻撃」ではなく「教育」として受け取る。これにより、感情的にならずに内容を客観視できます。

肯定的な部分も同時に認識する能力 :批判だけでなく、評価された部分も同時に聞き取る。これが自己肯定感を保つ秘訣でした。

他者との競争ではなく成長に焦点を当てる姿勢: 「勝ち負け」ではなく「学び」を重視する。これにより、プライドが傷つくことを防げます。

この体験が、私のその後3年間の初任校生活を支えました。行事の責任者や研究会運営で困難に直面しても、「Y先生との指導案事件」を思い出すことで、冷静に対処できるようになったのです。

「自信がない」が生む認知の歪み

「びくびく」が生む悪循環

自信がないとき、教師はどのような心理状態になるでしょうか。私の経験では「人にどう思われるか」が異常に気になる状態になります。

この状態では、ちょっとした不備や失敗が拡大して感じられます。普段なら気にならない程度のミスでも「うわー、やってしまった」と過剰に反応してしまうのです。

そうなると、連鎖反応が始まります。

「あれもダメ。これも足りない。やっぱり自分はダメな教師だ」

この思考パターンこそが、ルビンの壺現象そのものです。「ダメな部分」という壺しか見えなくなり、「うまくいっている部分」という二人の横顔が完全に視界から消えてしまうのです。

完璧主義が招く破滅的思考

教師という職業は完璧主義者を引き寄せます。「子どもたちに良い教育を提供したい」という使命感から、完璧を求めてしまう。しかし、この完璧主義こそが認知の歪みを生む最大の要因なのです。

完璧主義者の思考パターンを分析してみましょう。

オール・オア・ナッシング思考 :「完璧でなければ失敗」という極端な思考。70点の授業でも「失敗」と感じてしまいます。

過度の一般化 :一つの失敗から「いつも失敗する」と結論づける。一度生徒に注意されただけで「自分は指導力がない」と決めつけます。

心のフィルター :ネガティブな出来事だけに焦点を当て、ポジティブな出来事を無視する。10人の生徒から感謝されても、1人からの不満だけを覚えています。

マイナス思考: 良い出来事も悪い出来事に転換してしまう。「今日の授業がうまくいったのは、たまたまだ」と考えます。

これらの思考パターンが組み合わさることで、現実を歪めて認識し、自分で自分を追い詰めていくのです。

自信に根拠は不要という革命的な考え方

「自信をもてないから苦労している」への回答

よく聞く悩みがあります。「自信をもてないから苦労しているんです。どうやって自信をつければいいんですか?」

この質問に対する私の答えは明確です。

「自信をもつのに根拠は要らない」

なぜなら、「自信」とは読んで字のごとく「自分を信じること」だからです。自分を信じるのに、他人の評価や実績は必要ありません。

存在することの価値

考えてみてください。あなたは今まで何年間、教師として働いてきましたか? 1年でも、10年でも、その期間を生き抜いてきたという事実があります。

今日まで生きてきたこと: これだけで十分な価値があります。困難な教育現場で、心を折らずに続けてきた。それは立派な実績です。

今、ここに存在していること: 呼吸をして、考えて、悩んで、それでも前に進もうとしている。その姿勢こそが尊いのです。

子どもたちと向き合い続けていること: 完璧でなくても、あなたなりに子どもたちのことを思い、教育に携わっている。その事実に価値がないはずがありません。

これらの事実を認識するだけで、根拠のない自信を持つことができます。そして、この「根拠のない自信」こそが、認知の歪みから脱出する第一歩なのです。

自信が変える認知のメカニズム

自信を持つと、認知のパターンが劇的に変わります。

失敗への耐性が向上 :「失敗しても自分の価値は変わらない」と思えるようになります。これにより、一つの失敗で全てを否定する思考から脱却できます。

チャレンジ精神の復活: 「どうせダメだ」ではなく「やってみよう」と思えるようになります。新しい指導法や生徒へのアプローチを試す勇気が生まれます。

他者の評価への依存度低下 :「人にどう思われるか」よりも「自分がどう思うか」を重視できるようになります。これにより、本質的な教育活動に集中できます。

成功の認識能力向上 :小さな成功や改善も見逃さなくなります。生徒の笑顔、同僚からの感謝、保護者の理解など、これまで見落としていた成功を認識できるようになります。

「全てがうまくいかない」は存在しない

イラショナル・ビリーフの罠

🔷「何をやってもうまくいかない」

🔷「誰も分かってくれない」

これらの表現は、心理学で「イラショナル・ビリーフ(非合理的信念)」と呼ばれます。現実を歪めて認識する思考パターンの典型例です。

冷静に考えてみてください。本当に「何をやっても」うまくいかないのでしょうか?本当に「誰も」分かってくれないのでしょうか?

現実的な検証の重要性

私がコーチングで使う手法の一つに「現実検証」があります。クライアントの教師に実際の状況を詳しく聞いてみると、必ず以下のような事実が判明します。

授業について

  • 全ての授業がダメなわけではない
  • 特定の単元や特定のクラスではうまくいっている
  • 生徒からの反応が良い瞬間もある
  • 同僚から参考にしたいと言われた授業もある

生徒指導について

  • 全ての生徒との関係が悪いわけではない
  • 信頼してくれている生徒もいる
  • 過去に成功した指導事例もある
  • 他の教師から相談される場合もある

保護者対応について

  • 全ての保護者が不満を持っているわけではない
  • 感謝されたこともある
  • 理解を示してくれる保護者もいる
  • トラブルになるのは特定のケースのみ

同僚との関係について

  • 全ての同僚と関係が悪いわけではない
  • 相談に乗ってくれる人もいる
  • 協力してくれる場面もある
  • 認めてくれている同僚もいる

このように、「全て」や「誰も」という極端な表現は、現実と一致しないことがほとんどなのです。

成功している「点」を見つける技術

認知の歪みから脱出するためには、意識的に成功している「点」を見つける技術を身につける必要があります。

1日1つの成功を記録する :どんな小さなことでも構いません。「今日は生徒が挨拶を返してくれた」「授業で生徒が笑顔になった」「同僚が手伝ってくれた」など、毎日一つずつ成功を記録します。

週に1回の振り返り時間 :1週間を振り返り、うまくいったことを3つ以上挙げます。最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れてくると必ず見つけられるようになります。

他者からのフィードバックを記録 :生徒、保護者、同僚からの肯定的なフィードバックを記録します。些細な感謝の言葉でも、書き留めておくことで後から見返すことができます。

改善した点に注目 :完璧でなくても、以前より改善した点に注目します。「前回より5分早く授業準備ができた」「以前より落ち着いて生徒指導ができた」など、成長の跡を認識します。

データで見る教師の成功率

実際のデータを見ると、「全てがうまくいかない」という認識がいかに歪んでいるかが分かります。

授業の成功率 :教師は、年間1000時間以上の授業を行います。その中で「完全に失敗」と言える授業は実は10%以下です。70%以上は「普通以上」の授業ができているのが現実です。

生徒との関係: 担当する生徒の80%以上とは、少なくとも「普通」以上の関係を築けています。問題が生じるのは一部の生徒との関係のみです。

保護者対応: トラブルになる保護者対応は全体の5%以下です。95%以上は円滑に進んでいるか、少なくとも大きな問題にはなっていません。

同僚との関係: 職場で直接的な対立がある同僚は、通常1-2名程度です。大多数の同僚とは協力的な関係を築けています。

これらの数字を見ると、「何をやってもうまくいかない」という認識が、いかに現実とかけ離れているかが理解できます。

認知の歪みを正す具体的な実践法

ルビンの壺トレーニング

実際にルビンの壺の図を使って、認知の転換を練習する方法があります。
(※このブログの画像も御活用ください)

ステップ1:壺を見る
まず意識的に白い壺の部分に注目します。壺の形をはっきりと認識できるまで集中します。

ステップ2:横顔を見る
次に、黒い部分に注目を切り替えます。二人の人物の横顔がはっきりと見えるまで集中します。

ステップ3:切り替え練習
壺と横顔を意識的に切り替える練習を行います。最初は難しいですが、慣れてくると瞬時に切り替えられるようになります。

ステップ4:現実への応用
この技術を実際の教育場面に応用します。困難な状況に直面したとき、意識的に「もう一つの見方」を探す習慣をつけます。

Y先生式受け取り方変換法

初任者時代のY先生から学んだ技術を体系化した方法です。

変換パターン1:批判→学習機会

  • 従来:「指摘された」→「攻撃された」
  • 変換後:「指摘してもらえた」→「学習機会をもらえた」

変換パターン2:失敗→経験

  • 従来:「失敗した」→「ダメな教師だ」
  • 変換後:「失敗した」→「貴重な経験を積んだ」

変換パターン3:問題→挑戦

  • 従来:「問題が起きた」→「自分の能力不足だ」
  • 変換後:「問題が起きた」→「成長する挑戦をもらった」

変換パターン4:困難→機会

  • 従来:「困難な状況だ」→「どうしようもない」
  • 変換後:「困難な状況だ」→「力を試す機会だ」

3つの質問による現実検証法

認知の歪みに気づいたとき、以下の3つの質問を自分に投げかけます。

質問1:本当にそうなのか?
「何をやってもうまくいかない」と思ったとき、本当に全てがうまくいっていないのか事実を確認します。具体的な事例を挙げて検証します。

質問2:他の見方はないか?
同じ状況を違う角度から見ることはできないか考えます。Y先生のように、同じ出来事でも全く違う解釈ができる可能性を探ります。

質問3:この思考は役に立つか?
その思考パターンが、問題解決や成長に役立つかを冷静に判断します。役に立たない思考なら、意識的に手放します。

成功日記の活用法

認知の歪みを矯正する最も効果的な方法の一つが「成功日記」です。

記録する内容

  • 今日うまくいったこと(どんな小さなことでも)
  • 生徒や同僚からの肯定的な反応
  • 自分が成長したと感じた瞬間
  • 感謝されたり、認められたりした出来事

記録のコツ

  • 毎日最低1つは記録する
  • 具体的な事実を書く(感想ではなく事実)
  • ポジティブな感情も一緒に記録する
  • 週に1回は読み返す

効果の仕組み 成功日記を続けることで、脳が自動的に成功や肯定的な出来事に注意を向けるようになります。これまで見落としていた成功を認識できるようになり、認知のバランスが改善されます。

同僚との関係改善に応用する方法

「誰も分かってくれない」からの脱出

「誰も分かってくれない」という思考も、典型的なイラショナル・ビリーフです。この思考から脱出するための具体的な方法を紹介します。

理解者の再定義 :「完璧に理解してくれる人」を求めるのではなく、「部分的でも理解を示してくれる人」に注目します。完璧な理解など、家族でも困難なのが現実です。

小さな理解の蓄積 :同僚からの「お疲れ様」という挨拶、「大変ですね」という共感の言葉、ちょっとした手助けなど、小さな理解の積み重ねを認識します。

理解されるための工夫: 自分から理解してもらえるような行動を取る。愚痴ばかりではなく、感謝を表現したり、相手の話も聞いたりする姿勢を示します。

職場での実践事例

私がコーチングした先生の事例を紹介します。

事例1:Aさん(小学校教師・経験5年)
「同僚が冷たい」と感じていたAさん。成功日記をつけ始めて1ヶ月後、以下の気づきがありました。

  • 実は毎日誰かが声をかけてくれていた
  • 困ったときに手助けしてくれる同僚が複数いた
  • 自分が忙しさで周りに気を配れていなかった

結果として、Aさんから積極的に同僚とコミュニケーションを取るようになり、職場の人間関係が劇的に改善しました。

事例2:Bさん(中学校教師・経験10年)
「管理職が理解してくれない」と悩んでいたBさん。認知の転換を練習した結果、以下の変化が起きました。

  • 管理職の指摘を「成長の機会」として受け取れるようになった
  • 自分の提案も以前より素直に聞いてもらえるようになった
  • 管理職との関係が改善し、より良い職場環境が実現した

事例3:Cさん(高校教師・経験15年)
ベテランでありながら「最近の若い教師に理解されない」と感じていたCさん。視点を変えることで、以下の発見がありました。

  • 若い教師たちは実はCさんの経験を尊敬していた
  • 世代間のコミュニケーション方法の違いが問題だった
  • お互いの良さを認め合える関係を築くことができた

まとめ:認知を変えれば現実が変わる

重要なポイントの再確認

「何をやってもうまくいかない」と感じる教師が覚えておくべき重要なポイントを再確認しましょう。

認知の歪みは誰にでも起こる :完璧主義で責任感の強い教師ほど、認知の歪みに陥りやすいのが現実です。これは個人の欠陥ではなく、人間の脳の特性による自然な現象です。

視点を変えるだけで現実は変わる :同じ状況でも、受け取り方次第で全く違う体験になります。Y先生との研修体験が示すように、認知を変えることで現実を変えることができます。

自信に根拠は不要 :存在するだけで価値があり、今まで続けてきただけで十分な実績です。他者の評価に依存せず、自分を信じることから全てが始まります。

成功は必ず存在している :「全てダメ」ということは現実的にあり得ません。意識的に探せば、必ず成功している部分が見つかります。

今日から始められる具体的な行動

今日すぐできること

  1. 今日1つだけ、うまくいったことを紙に書く
  2. 同僚からの肯定的な言葉を一つ思い出す
  3. 「本当に全てダメなのか?」と自分に質問する

今週中にできること

  1. 成功日記を始める
  2. Y先生式の受け取り方を1回試してみる
  3. 同僚との関係で良い面を3つ見つける

今月中にできること

  1. 認知の歪みに気づく習慣をつける
  2. 3つの質問による現実検証を実践する
  3. 自分の成長や改善を記録し始める

最終メッセージ:あなたは既に十分価値ある教師

最後に、現在苦しんでいる教師の皆さんに伝えたいことがあります。

あなたは既に十分に価値のある教師です。完璧でなくても、失敗があっても、それでも教育現場に立ち続けているその姿勢こそが尊いのです。

認知の歪みという色眼鏡を外せば、あなたの周りには必ず成功や理解者が存在していることに気づくでしょう。Y先生のように、同じ状況でも前向きに受け取ることができるようになれば、教師としての人生は劇的に変わります。

今日から、少しずつでも良いので、視点を変える練習を始めてみてください。きっと、これまで見えなかった光が見えてくるはずです。